「ピアノやギターなどの好きな楽器を、近隣への迷惑を気にすることなく演奏したい」「映像や音楽、ゲーム、カラオケを思う存分楽しみたい」といった願いをかなえてくれるのが防音室。近年は、映像や動画配信の利用者が増え、臨場感のある音響で楽しめるシアタールームも人気上昇中です。そんな防音室は、リフォームで導入することも可能ですが、新築時であれば思い通りのデザインや広さにすることができるためおすすめです。今回は、防音室の種類やメリット、押さえておきたいポイントなどについて、当社が手掛けた実例も交えて紹介します。
●防音室の種類を把握しよう
防音室には、設置方法によって大きく2つのタイプがあります。設置したい場所や目的などに合わせて選びましょう。
組立式防音室
アップライトのピアノを置きたい、テレワークで使いたいなど、あまり広いスペースは必要ないけれど、防音効果の高い部屋がほしいという場合にぴったりのタイプ。簡易防音室とも呼ばれていて、希望に合わせて広さを選ぶことができて、短期間で設置も可能。コストを抑えたい人におすすめです。
一方、形状が決まっていることが多く、柱などがある場所に設置する場合には、デッドスペースができてしまう可能性があります。
リフォーム式防音室
組立式防音室とは異なり、ひと部屋丸ごと防音室にすることも可能。ドアや壁、天井、床は、用途に合わせて最適な資材を使用することで、思い通りの性能に仕上げられます。設計から検討できるため、デッドスペースができないように工夫することもできます。
デメリットは、組立式よりも費用がかかりやすいところです。
●防音室を導入するメリット
防音室には、さまざまなメリットがあり、注目度がアップしています。どのようなメリットがあるか、一つずつ見ていきましょう。
騒音トラブルを気にする必要がない
家庭で楽器を演奏したり、音響設備を導入したりする場合、最も気がかりなのが騒音トラブルです。ご近所間のトラブルは、深刻になるケースも少なくありません。特に、一戸建ての場合は簡単に引っ越すこともできないため、できれば避けたいもの。
防音室を導入しておけば、近隣住民に迷惑をかける心配はなくなります。
また、同居する家族に対しての防音対策になるのも、大きなメリットといえるでしょう。例えば、毎日楽器の練習を行うとなると、家族といえども音にストレスを感じる可能性があります。しかし、防音室があれば、そのような心配は無用。家族が寝ている時や来客中なども、気兼ねなく練習したり、趣味を楽しんだりすることが可能です。
さまざまな用途で利用できる
防音室は、楽器練習や音楽制作のスタジオ、オーディオルーム、カラオケルーム、シアタールームとして活用する人が多いです。しかし、他にもさまざまな用途で利用が可能です。
というのも、防音室は、音が外に漏れるのを防ぐのはもちろん、中にいる時は外の音を遮断できるというメリットもあります。つまり、外の音を気にすることなく、仕事や勉強、読書に集中できたり、生活音の心配なくテレワークやリモート学習ができたりします。工夫次第で、さまざまな使い方ができるといえます。
気密性が高いので暖かい
防音室は、音が漏れるのを防ぐために気密性を高めています。また、壁が厚く、窓やドアに特別な技術が施されていることが多いため、外気の影響を受けにくいという特徴も。そのため、冬は暖かく過ごすことができるというメリットがあります。
●事前に知っておくべき!防音室のデメリットと対策
防音室には、多くのメリットがある一方、デメリットもあります。自宅に防音室の導入を考えている方は、事前にしっかり確認しておくようにしましょう。
費用がかかる
防音室を導入する最大のデメリットは、通常の部屋よりも施工費用がかかってしまうことです。床や壁、天井に防音材や吸音材を施す必要があるため、一般的な部屋を作るよりも建材費用が増すのはもちろん、特殊な施工技術を要するケースがほとんど。場合によっては、ドアや窓を二重にするなどの対策も必要です。この場合も、専用のドアや窓を購入したり、気密性を高める施工が必要だったりと、コスト増加につながってしまいます。
予算をオーバーしてしまいそうな場合は、壁や床だけを施工したり、開口部で音が漏れやすい窓だけをペアガラスにしたりすることも可能。部分的な施工でコストを抑えましょう。
広さが必要
前述したように、防音室は床や壁、天井に防音材や吸音材を施工するため、壁は厚くなり、天井は低くなってしまいます。また、防音室の施工では「絶縁工法」や「浮床工法」といった、隣の部屋や外壁との間に空間や緩衝材を設けて防音性能を高める工法がよく採用されます。
これらを踏まえると、同じスペースにおいては一般的な部屋より小さくなることが想定されます。言い換えると、防音室の内側に目的のスペースを確保するためには、一般的な部屋よりも広さが必要なのです。「狭くて思っていた使い方ができない」などということがないよう、このような特性を理解した上で間取りなどを設計するといいでしょう。
●防音室を作る際に押さえておくべきポイントを理解しよう
防音室をより効果的に導入するにはどのようなところに気を付ければいいのでしょうか。押さえておきたいポイントを紹介します。
用途を明確に理解しておく
どのように使うかによって防音室の造りは違ってきます。例えば、ひと口に楽器演奏のためといっても、ピアノなのかギターなのか、ドラムなのかなどによって、設計や使う資材がかなり変わってくることも。また、防音対策には音をはね返す「遮音」と音を吸収する「吸音」という2つの方法があり、用途に応じてそのバランスを決めることになります。そのため、まずは、防音室の用途をはっきりさせることが大切です。
さらに、子どもの成長やライフスタイルの変化などとともに、当初の用途が変わってくる可能性も少なくありません。趣味の部屋に使ったり、仕事場にしたり、友人たちとの集まりに使ったり、防音室はさまざまな場面で活躍します。せっかくの防音室が無駄にならないよう、少なくとも2つ以上の使用用途を想定しておきましょう。
必要なスペースをしっかりと確保する
組立式防音室を設置する場合も、リフォーム式防音室にする場合も、主に絶縁工法や浮床工法が採用されています。これらは、部屋が壁や床に接して振動を伝えることがないよう10cm~15cm程度の空間をつくり、防音機能を高める工法。その結果、空けたスペースと、防音壁や床の厚みの分だけもとの部屋より狭くなります。それを考慮したうえで、それぞれの用途に必要なスペースが確保できているかどうかを確認しておきましょう。
温度や湿度管理について対策をする
先述の通り、防音室は気密性が高いため、冬は暖かく過ごせるということが魅力。ただその反面、夏場の暑さや梅雨時の湿気などが原因で、季節によっては快適に過ごすことができないだけでなく、楽器や精密機械の保管には不向きな環境になることも考えられます。エアコンなどを設置して、必要に応じて温度や湿度の管理ができるようにしておくことが必要です。ただ、配管穴からの音漏れがないように、設計時にしっかりと確認しておきましょう。
●【実例紹介】イシンホームで防音室を設置して、周囲を気にせず音楽や映画鑑賞を楽しもう!
最後に、当社が手掛けた防音室のある家を紹介します。
完全分離型二世帯の家で、防音室という長年の夢を実現
エレクトーンやシンセサイザーを演奏する子世帯の奥様が、絶対に欲しかったという防音室。防音室専用の天井材「オトテン」を採用するなど、しっかりとした防音性能を実現。エアコンも完備し、時間や周りを気にせず、一年中好きな楽器演奏を楽しめます。
●FAQ
ここでは、自宅に防音室を導入しようと考えている人からよく挙げられる、具体的な質問にお答えします。
Q. どの程度の防音性能があればよい?
防音室を作る場合、どの程度の防音性能が必要かは重要なポイントです。目安となる基準を紹介しますので、目的に合った性能の防音室を実現させてください。
・遮音性能値の算出方法
防音性能の程度を決める際に目安にしたいのは「遮音性能値」です。これは、壁に入る“入射音”が、壁を通り抜けた後の“透過音”になった時にどれくらい小さくなっているかを、音の単位「デシベル(dB)」で表したもので、「Dr値」として表記されます。例えば、入射音が100dB、透過音が55dBの場合は、45dBの音を遮断しているため「Dr-45」となります。なお、遮音性能は、数値が大きいほど高いです。
・どのくらいの遮音性能値だと騒音を防げる?
どのくらいの「Dr値」が騒音を防げているのか、日本建築学会による対応例を紹介します。
まず、テレビや会話などの一般的な生活音に関しては「Dr-55」で「通常では聞こえない」、「Dr-45」で「かすかに聞こえる」、「Dr-40」で「小さく聞こえる」となります。
また、楽器は通常90~110dBとされています。この場合、「Dr-55」だと「かすかに聞こえる」状態です。「Dr-50」で「小さく聞こえる」、「Dr-45」で「かなり聞こえる」、「Dr-40」で「曲がはっきり分かる」となります。ホームシアターも最大100dB程度の音が出ることが多いため、これらと同程度のDr値が必要となると考えられるでしょう。
・自治体の設定する騒音基準をチェック
騒音基準は、どこでも同じというわけではありません。環境基本法により、住居・商業・工業といった地域類型や、道路に面しているかといった地域区分で設定されています。また、時間ごとの騒音基準も定められています。
例えば、療養施設や社会福祉施設などが集まる地域では、昼間は50dB以下、夜間は40dB以下。住宅地では、昼間は55dB以下、夜間は45dB以下とされています。
住宅地でも、2車線以上の道路に面する場合は、昼間は60dB以下、夜間は55dB以下になります。
このように、防音室を設置する自宅が、どのような地域に当たるのかがポイントです。そのため、住んでいる自治体の設定する騒音基準をあらかじめ確認しておくようにしましょう。
Q. 防音壁や床材以外に注意するポイントは?
防音室を作る際、壁や床の防音対策を重視しがちですが、その他にも注意しておきたいポイントがあります。防音を効果より高めるために、ぜひチェックしておきましょう。
・窓の防音対策
窓を二重窓にすると遮音性が高まります。二重構造の窓は、ガラスとガラスの間にガスを挟むため、音が伝わりにくいのです。
さらに、防音カーテンを取り入れると遮音効果はよりアップします。防音カーテンは、厚く、密度が高い生地を使用することで、遮音、吸音する効果を高める仕組みになっています。
二重窓と防音カーテンの併用で、より防音性能を高めておくといいでしょう。
・換気扇の防音対策
見落としがちなのが換気扇の防音対策。気密性が非常に高い防音室は、夏に暑かったり、湿気がこもってしまったりすることもあり、快適に過ごすためには換気扇やエアコンの設置が欠かせません。ただ、この換気扇やエアコンから音漏れするケースがあるので注意が必要です。設置次第では、せっかくの防音性能が低下してしまうことがあるのです。
対策として、できれば防音室向けの構造になっている製品を選ぶようにしましょう。そして施工の際には、換気扇やエアコンの配管部分は、隙間がないようにパテで塞ぐことが大切です。このパテは、経年劣化しますので、定期的な交換が必要なことも覚えておきましょう。メンテナンスについては、施工業者にしっかり確認しておくことをおすすめします。
●まとめ
趣味の時間を楽しんだり、家族や友人が集まったり、生活を豊かにしてくれる防音室。騒音トラブルを避けるためにも有効です。特に新築の際に導入すれば、ほかの部屋に影響が出ないようにスペースを確保し、希望に応じた資材やデザインにすることができるうえ、リフォームなどで防音工事をするよりも費用を抑えられる可能性があります。今回の記事を参考に、一度防音室について検討してみてはいかかですか。用途に応じたアドバイスもさせていただきますので、気軽にご相談ください。