
いま注文住宅づくりの希望で真っ先に挙げられるのが「回遊動線」のある間取り。家事がしやすく暮らしやすい家を考える上で、多くの人から注目される人気のプランです。ところが、実際に家づくりに取り入れた方々から「失敗した」と後悔される声が聞かれるケースも多く、戸惑いや不安も広がっています。
そこで今回は、「回遊動線」のある間取りのメリットを整理し、実際の失敗例を中から「回遊動線」のデメリットを具体的に検証。「回遊動線」で後悔しないための成功法則をご紹介します。
目次
そもそも回遊動線とは

部屋から部屋への経路や家事の移動の際、一般的な設計では、部屋や廊下で行き止まりになり引き返す動線になっています。ところが、回遊動線は行き止まりがなく、別のルートを通って自然に元の場所へ戻れる設計になっています。
このように回遊動線は家の中の移動がスムーズになり、家事や暮らしの効率が上がるので、最近の注文住宅で人気のプランになっています。
回遊動線のメリット
使い勝手の良い回遊動線はさまざまなメリットがあります。
・家事効率をアップする
家の中の移動に最短の経路が選べるため、移動時間が短縮できます。そのため家事の行き来が多いリビングやキッチン、洗面所などの水回り周辺に回遊動線を設ければ、移動がスムーズになり、家事の時間を効率化して時短することが出来ます。
・家族同士の渋滞が起きにくい
例えば、キッチンや洗面所の出入り口が回遊動線だと、行き来のルートが増えるので、家族の人数が多くても渋滞しにくくなります。
特に朝の出勤時など、人の流れが集中する時間帯でもスムーズに移動しやすくなります。
・プライバシーを確保しやすい
来客用の通路と家族用の通路を分けるような回遊動線にすれば、来客時でも気兼ねなく家の中を行き来することが出来ます。また、洗面所や浴室へのアクセスをリビングと廊下両方に設けることで、家族間でのプライバシーも確保できます。
・家が広く感じられる
実際の広さは変わらなくても、行き止まりがない回遊動線の住まいは、家の中が広く感じられます。また通路が多いため、風通しが良く、適所に窓を設ければ、採光を良くすることも可能です。
回遊動線で後悔するケースも
あれこれ頑張って回遊動線を間取りに取り入れたにも関わらず、いざ住みだすと回遊導線にした意味が無かった、良くなかったと後悔されている方も増えています。
そこで回遊導線を作ったにも関わらず後悔をしている方の例をケーススタディとして分析し失敗しないための参考として、実際の導入時に役立てましょう。
回遊動線で後悔しないためのケーススタディ

人気で便利そうだからと安易に回遊動線をつくったものの、後で後悔するケースは後を断ちません。そこでよくある失敗例をピックアップしてご紹介します。
・収納スペースを潰す小さな回遊動線 後悔度⭐︎
回遊動線でよくある失敗パターンは、小さすぎる回遊動線です。例えば、キッチンに周遊動線をつくる際に、キッチン↔︎玄関ホール↔︎水回り↔︎キッチンと、玄関ホールからの動線と、水回りへの2方向に対して回遊動線を計画するとします。この2ウェイのパターンは人気の形ですが、1つの通路で同じような使い方ができるようにすることも可能で、ムダな通路をつくることになりかねません。
小さな空間で回遊動線を設ける場合は、ムダな動線にならないかしっかりと検討してください。
・プライバシーが気になる場合とは 後悔度⭐︎⭐︎
回遊動線を優先したことで、プライバシーが守られないケースは案外多い失敗例です。よくあるのは、リビングを起点とした回遊動線を採用して、脱衣所やランドリールームなどの来客に見せたくない場所が目に入ってしまうこと。
また、回遊動線が家族間でのプライバシーにも影響する場合があります。特に、子ども部屋を回遊動線に組み込むと、幼児期の間は問題なくても、成長するに従って子どもが、通行の際の視線を嫌がるようになります。
回遊動線をつくる場合は、来客時の動線や長期的な視点からのプライバシーのあり方を考えて、しっかりと検討することが大切です。
・キッチンからランドリーへの匂いのトラブル 後悔度⭐︎⭐︎⭐︎
キッチンからランドリールームへの回遊導線でよくあるトラブルが、料理の匂いや油煙がランドリールームに流れ、部屋干ししている洗濯物への臭い移りが気になってしまうケースです。人の移動がスムーズになるということは、空気も通りやすいということでもあります。臭いや煙などの影響への注意も怠らないでください。
・落ち着かないリビングに大後悔 後悔度⭐︎⭐︎⭐︎
住まいは、快適で心地よく過ごせる空間でなければいけません。ところが、回遊動線ありきで、快適性より動線を優先してしまうと思わぬ落とし穴があります。例えば、リビングなどの居室を回遊動線に組み込んでしまうと、「家族が通るたびに落ち着かない」リビングになってしまうことも。ゆったりくつろげないリビングでは、せっかくのマイホームも台無しです。
・建築費が高くなって予算オーバー 後悔度⭐︎⭐︎⭐︎
回遊動線を取り入れたオープンフロアのプランにした例では、耐震基準をクリアするため耐震壁の位置や数を見直し、鉄骨や耐震ダンパーなどの補強材を使用することとなり、安全性を確保するため建築コストが上がり予算をオーバーしてしまうケースがあります。
回遊動線は一部の壁を取り払う形で回遊ルートをつくることが多いため、建物の剛性が低下し、耐震性に影響を及ぼすことがあります。さらに、施工の手間や材料費もかかり、建築費も高くなりがちです。回遊動線の採用は、建物全体の設計や建材・工法などにも大きく関わってきますので、予算面からの検討も忘れずに行ってください。
・空調効率が悪く電気代が家計を圧迫 後悔度⭐︎⭐︎
回遊動線を採用した間取りは開放的なりやすく、空調の効率に低下させる場合があります。ただでさえ、戸建てのマイホームを新築し賃貸住宅から住み替えると、電気代の上昇に驚くご家庭が多いのですが、そこに空調効率の悪さからエアコンを使いすぎるとダブルパンチで電気代がアップします。
空気の流れをしっかり考え、適切な場所にエアコンを設置し、空調効率の低下を防ぐことが大切になります。
失敗例から学ぶ回遊動線のデメリット
住まいに回遊動線を取り入れる場合は、回遊動線のデメリットを理解した上で、住む人の行動パターンをしっかり考え、家の中での移動を見直すことが大切です。
(1)収納スペースが少なくなる
回遊動線のある間取りでは、複数の通路や開口部を設ける必要があるため、収納のために使えるスペースが少なくなります。また、壁面が少なくなるため収納に使う家具を置く場所も減ってしまいます。
(2)生活スペースが狭くなる
回遊動線をつくる場合、住まいの中で通路部分の面積が増えることから、その分リビングや収納などの床面積が減ることになります。特に床面積に限りがある狭小住宅の場合は、必要な生活スペースを圧迫しないよう、上手に回遊動線を取り入れる必要があります。
(3)プライバシーを確保しにくい
回遊動線は壁による仕切りが少なくなり、音が漏れやすくなる傾向があります。また人の気配も感じやすく、落ち着かないと感じる場合もあります。
(4)冷暖房効率が悪くなる
回遊動線のある間取りは、エアコンで冷やした空気や暖めた空気が開口部から漏れ出るため、冷暖房の効率が悪くなりがちです。通路に扉を設置する、建物自体の気密性や断熱性を向上させるなどの工夫が必要になります。
(5)コストが増える
回遊動線では、通路や扉などが増えることから、施工の手間や材料費のアップなどコスト増になりがちです。また、壁が少なくなることで耐震壁もつくりにくく、耐震性を補強するためにコストが高くなる場合もあります。
回遊動線をつくる際のチェックポイント

回遊動線で後悔しないために事前にチェックしておきたいポイントを紹介します。
・その「回遊動線」本当に必要?
回遊動線の人気が高まり注目されているため、「自分の家にも!」と安易に回遊動線を取り入れるケースがあります。しかし便利そうだからという曖昧なイメージで進めると、実際に暮らして見るとあまり使われず「不要だったかも」と後悔することになりかねません。
回遊動線を作る際は「いつ・誰が・どんなふうに使うのか?」を想定しながら本当に必要な動線なのかしっかりと吟味することが大切です。
・収納や部屋を圧迫する「回遊動線」はNG
回遊動線を導入することで必要な収納空間や部屋づくりに支障が出るようでは本末転倒。まず、必要な収納空間を事前に十分に検討してから回遊動線を計画してください。
その際は、現在必要な収納空間だけでなく家族構成や生活スタイルの変化も予測して、長期的な視点で収納プランを考えることが大切です。
また、回遊動線上に収納があることで、使い勝手が悪くなりムダな動きが多くなるケースもあるので、収納の量だけでなく配置についてもよく考えておきましょう。
・暖冷房・構造強度などへの影響もチェック
回遊動線は開放的な間取りになるため空調効率が悪くなることがありますが、上手に設計すると、冷暖房された空気がスムーズに流れ、空調の効率を高める効果も期待できます。
また回遊動線で開口部が増えることで耐力壁がつくりにくくなると、別な耐震対策が必要になるためコストアップの要因になることもあります。
回遊動線を設計する際は、空調の流れや構造強度などいろいろな角度から検討することが大切です。
・実際の生活動線にフィットするか確認
回遊動線が人気になっているのは、暮らしの中で感じられる実用的なメリットが多いからです。逆に実際の暮らしに合わない回遊動線を作ってしまうと「いつも同じルートしか使わず、もう一方の通路がムダになった」と後悔することになってしまいます。
回遊動線を成功させるカギは、家事や身支度など、日々の暮らしに合った回遊のし方を設計できるかどうか。家族の“日々の動き”に合わせた動線を想定することで、“使われない動線”が防げます。
回遊動線のアイデア
姉妹のタイプによる回遊動線のアイデアを紹介します。
・平屋の回遊動線
平屋は、共用スペースであるリビングと、寝室や子ども部屋などの個室がワンフロアに配置されます。この共用スペースと個室のゾーニングに、使いやすい動線を組み入れるのがポイントです。
例えば、センター部に玄関や洗面室などを設け、共用スペースと個室を左右に振り分けるレイアウトにして、キッチンからも居室からも洗面室にアクセスできるような回遊動線がオススメです。
・コンパクトな家の回遊動線
広さが限られたコンパクトな家の場合は、ムダなく、使いやすい間取りにするのが理想。廊下は極力なくす方向で検討し、短い動線と、2つ以上のアクセスルートを設けることがポイント。
例えば、帰宅して玄関から直接洗面室に行けそのままキッチンへも行ける「ただいま動線」を設け、一方、玄関から直接LDKへ行く動線を設ければ、実用的な回遊動線がつくれます。
・広さにゆとりがある家の回遊動線
35坪以上の広さにゆとりがある家では、回遊動線もつくりやすいのですが、回遊動線を目的にするのではなく、家事のしやすさ、生活のしやすさを意識することが大切です。
例えば「ランドリー室で脱衣・洗濯 →部屋干し・取り込み →アイロンがけ・畳 み→ファミクロで収納」という洗濯のための一連の流れを一つの動線上にまとめ、そこにリビングやキッチン、玄関からの動線を加えると、家事の効率がアップし暮らしやすさを実感できる回遊動線になります。
FAQ
Q.回遊動線と一般的な間取りとの違いは?
A.最大の違いは、一般的な間取りは「動線の端に行き当たると戻る必要がある」のに対し、回遊動線は「別のルートで自然に元の場所へ戻れる」という点です。
同じ場所に戻るために「引き返す」必要があるかどうかで、家事のしやすさや移動の効率は大きく変わります。
Q.なぜ回遊動線が注目されているの
A.回遊動線が注目されているのは「家での過ごし方」が大きく変わっているため。主な変化は次のようなことです。
共働き家庭の増加
→家事に時間がかけれないため、効率的な動線設計のニーズが高まった
在宅時間の増加(コロナ以降)
→「家の中の動きやすさ」や「暮らしのストレス」がより意識されるようになった
土地面積の狭小化
→ 限られたスペースの中でムダなく動ける回遊動線への評価が高まった
まとめ
回遊動線は安易に取り入れて後悔するケースも多く、設計の難易度の高い間取りです。イシンホームでは豊富な経験をもとに家族のライフスタイルにフィットして、本当に暮らしやすい回遊動線を数多く提案しています。回遊動線でお悩みや疑問がありましたら、お気軽にご相談ください。

